第二章:鬼の哭く街

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 ユキジが茶屋に入るとすでにツクネが席に座っていた。まだ朝も早い時間なので、他の客はほとんどいない。ツクネはいつになく真剣表情をしている。ユキジはツクネの向かいの席に座って問いかける。 「どうしたんですか? 朝からこんなところに呼び出して……それに何も言わずに出ていくなんて。ヒビキさんも心配していましたよ」 「……何の心配しているかはわからんけどな」 「えっ?」 「いや、こっちの話や」  ツクネは目の前のお茶をすすった。 「まどろっこしいのはあんまり好きじゃないから単刀直入に言うで……ユキちゃん、もうこの街から出た方がええわ」  ツクネはあれから一晩、どのようにユキジに伝えるか考えていた。真実を隠して、うまくごまかしながらユキジをこの街から去らせる方法はないかと思案したが、結局思いつかない。昨日の様子から見るとヒビキがユキジを襲うとは考えにくい。共感できないがヒビキなりの善悪の判断があって辻斬りを行っているのだろう。  ただそれもヒビキが刀に飲み込まれない限りだ。昨日のように妖怪化してしまったら、自分自身で制御で来ていない様子だった。正義感の強いユキジのことだ、この街にしばらくとどまっていたら辻斬り騒ぎに首をつっこまないと限らない。 「ツクネさん、いったいどういうことですか?」  突然のツクネの言葉にユキジはとまどってしまう。 「どういうことも、こういうこともあらへん。そのままの意味や。ユキちゃんは早くこの街から出た方がええ」 「だから、それが何でなんですか?」 「……」  ツクネは少し思案した後、観念したように言葉を続ける。 「昨日の夜、うちは例の辻斬りと出会った」 「えっ!? ツクネさんが?」 「ああ、昨日は取り逃してしもうたけど、今夜もう一度あいつをおびき寄せてとっつかまえる予定や」 「それなら私も手伝いますよ!」  ツクネの予想通り、ユキジも話に乗っかろうとしてくる。それをツクネは左の手のひらを出して制する。 「いらん! もう十分間に合ってる。ほら、前に会った妖怪のお嬢ちゃん! すでにあの子に手伝ってもらうことになってるんや」 「それなら、私も手伝いますよ!」 「あかん! ユキちゃんは絶対連れて行かんつもりや」  ツクネの言葉に思わずユキジはムッとする。 「足手まといにはならないつもりです」 「……そうやない」 「だったらなぜ?」  ツクネの態度がユキジには納得がいかない。本当のことを言うべきか否か、ツクネは少し迷った。ただ後からわかるより、自分なら先に知っておきたいと思い直し、ツクネはユキジに真実を伝えることにした。 「例の辻斬りの男の正体は……ヒビキや」
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