第二章:鬼の哭く街

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 次から次へとしつこいやっちゃな! ツクネが指の間に挟んだ火薬球を目の前の魍魎たちに投げつけた。轟音と共に囲みを作っていた魍魎の前で爆発が起こり、あたりに肉片が飛び散る。ツクネはさらに追撃をやめない。鋼鉄製の玉すだれを一匹の魍魎の頭部目がけて思い切り打ちおろす。妖怪もとっさに首を傾けて、直撃は避け、肩口のあたりで受ける。  あたりに鈍い音が響き、確かな手ごたえを感じたが、それでも魍魎は鋭い牙を突きつけようとする。ツクネも体を捻って攻撃を避けようとしたが完全には避けきれず、かすり傷を負う。  妖怪の中には体自体が頑丈で、ツクネの攻撃が通りにくいものも多くいたが、この魍魎は耐久性は人間とさほど変わらない。そういった意味では依然戦った蛇妖にくらべると、ツクネにとって戦いにくい相手ではなかった。  ただ、この魍魎は痛覚がないのか、腕がもげようと、半身が真っ二つにされようと頭をつぶされない限りは完全には止まらない。すでに三、四匹を倒したがまだ十近くの魍魎がいる。無理に頭を狙って倒しにかかると、数で来られると押し切られてしまうかもしれない。  どうやらこのまま足止めしとくのが最善みたいやな……ツクネは懐から透明な小瓶を取り出すと、その中の液体を口に含む。さらに懐から火打石を出して、顔の前で打ち付けながら、口に含んだ液体を霧状に噴出した。  再びツクネを取り囲む輪を縮めようとしていた魍魎の群れに燃え盛る火炎が吹き付けられる。獣的な本能からか、炎に対しては足を止め、警戒する様子を見せている。その隙にツクネは鋼線つきのクナイを投げ、辺りの塀や木に突き刺す。  いくつも伸びた鋼線がツクネと魍魎の間に巡らされ、一種の柵のような役割をしている。できるだけ距離を取りながら攻撃を加え、時間をかけながらの持久戦に持ち込むことがツクネの狙いだ。  一方、カリンは完全に接近戦に持ち込んでいた。最初の何匹かは両手に持った小太刀で無数に切り刻んだが、やはり頭を破壊しないと首だけでも牙を突き立てようと飛んでくる。カリンは小太刀で切り刻むことをあきらめ、鞘に納めた。  その隙ねらって一匹の魍魎が襲い掛かってくるが、カリンは右手に妖力を込めて相手の頭をつかむ。妖力が込められ、二回りほど大きくなったカリンの鬼の手はそのまま魍魎の頭を握りつぶし、体ごと地面に叩きつけた。  そのまま魍魎たちの群れに飛び込むと、風のように妖怪たちの間を駆け巡り、鬼の手でつかんでは地面に叩きつけ、つかんでは叩きつけを繰り返した。その様子は地獄で餓鬼たち叩き潰す鬼そのものだ。  六匹目の魍魎を叩き潰したカリンは塀の上を睨みつける。その視線の先にはコハクがいる。カリンの視線に気づいたコハクは微笑を浮かべる。 「さすがに鬼の子さんは魍魎では相手にならなかったですか」 「そうだな……今度はお前が遊んでくれるんだろ?」  カリンは炎の尾を出し、コハク目がけて勢いよく飛ばす。カリンから放たれた炎の尾は高速で円を描きながら飛んでいく。コハクはそれを軽々と躱した。だが、カリンもそれを先読みして、空中に躱したコハクのさらに上をとる。そして、大きく振りかぶった右手を思いきり降り下ろす。  コハクは左腕で防御したがそのまま、お構いなしにカリンはそのまま強引に右手でコハクをつかみ地面に叩きつけようとした。しかし、コハクは防御した左手を軸に反転し、うまく地面との衝突を避け、スッと柔らかく地面に着地する。カリンの右手はそのまま地面をえぐり取り砂ぼこりを巻き上げる。 「いやいや、さすがは鬼の手、すごい力ですね。今のは危なかったです」  言葉とは裏腹にコハクの表情には余裕が見られる。 「でも……」  カリンが左肩を押さえ、片膝をつく。 「ダメージはあなたの方がありそうですね」  コハクが微笑む。カリンの左肩には鋭いもので突き刺したかのような跡があり、そこから血があふれてくる。カリンはそこに妖気を込め、グッと力を入れる。完全に……という訳にはいかないが、傷口はある程度ふさがり、出血が止まった。 「なるほど……血が赤いのは人間のものですが、回復力は完全に妖怪のそれですね」  まるで実験用の動物について話すかのようにコハクは言った。 「今の一撃……電撃……昨日もそうだった」  カリンがゆっくりと立ち上がる。 「雷を操る妖怪……雷獣か」  カリンのつぶやきに対してコハクはしばらく無言だったが、少し考えたような表情を見せた後、自嘲気味に答える。 「ええ……半分はね」 「……半分?」 「私とあなたは同類のような物です。どうです? よかったら私と一緒に来ませんか?」  コハクがカリンの方へ手を伸ばす。
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