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「……姉ちゃん。まだ起きてる?」
ゲンタの声だ。
「ああ。どうしたんだ?」
「……中、入っていい?」
遠慮がちにゲンタが聞いた。ユキジはそっと扉を開け、ゲンタを中に招き入れてやった。枕もとの照明に灯を入れてやり、月明かりだけだった部屋が少し明るくなる。改めてみたゲンタの姿に驚いた。これから外出するかのような服装である。もちろん、たすきがけにかけたかばんも身につけている。
「こんな時間にどうしたんだ?」
「姉ちゃん、おいらと一緒に蛇喰を倒しに行ってくれないか?」
「⁉」
ユキジは驚いてゲンタの顔をまじまじと見つめる。どうやら本気らしい。
「姉ちゃんはじいちゃんから村のことを聞いたんだろ? ……でも、じいちゃん本当のことは隠している。本当はもう村もじいいちゃんも限界なんだ。だからおいらが何とかしないと!お願いだよ、力を貸してくれ!」
「無理だ。ゲンタの力じゃ死ぬぞ」
「……それでもおいらがやらなきゃ。おいらも符術士だ。」
「……」
ユキジの瞳をまっすぐ見つめるゲンタ。周囲が止めるのも振り切って旅に出てきたときの気持ちがユキジの脳裏によみがえる。止めても無駄だということがわかった。
「よし、私も行く。ただし、絶対に死ぬな。刺し違えてでも……なんてことは絶対に考えてはいけない。生きて帰ってくるんだ、わかったな?」
「ああ、約束する」
「よし!」
「蛇喰たちのアジトはわかっている。下っ端の妖怪をつけていったんだ。まあ、それが見つかって今日の騒ぎになったんだけど……」
今日の騒ぎ……そのゲンタの言葉でユキジは大事なことを思い出した。
「ゲンタ!確か村と神社の結界は妖怪を防ぐだけだな? 人間は神社に簡単には入れるのか?」
「えっ?」
「宝珠がなくなると結界が消える……まずい、ゲンタ。先に神社だ、いくぞ!」
ユキジは服装を整え、刀を腰に差すと全開にした部屋の窓から飛び出した。姉ちゃん、急にどうしたんだよ? などといいながらゲンタも続く。走りながらユキジの脳裏には女大道芸人ツクネの姿が浮かんでいた。
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