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次の土曜日、わたしは、見合い写真用の上品なワンピースを着て写真館を訪ねた。
直が運転する車で、目的地へ向かう。
車で四十分ほどのところにある洋風建築のレストランが、今日の撮影場所だった。
「チナ、どうする? 先にレストランで食事するか?」
「何言ってんのよ! 写真が先に決まってるでしょ!」
「食べたからって、すぐには太らないよ!」
「わかってるわよ! 緊張感から解放されて、ゆっくり味わって食べたいだけ!」
着くなりこれだ! 優雅な洋館で、穏やかな気持ちで写真を撮りたかったのに――。
いつものように、直と言い合いをしてしまった。ちょっと反省しつつ、レストランの支配人にあいさつした。
二階にある個室の一つを、撮影場所として準備してあるとのことだった。
ここは、結婚披露宴などに利用する人もいるので、かなりきちんとしたメイクアップルームまで用意されていた。そこで、従業員の女性に手伝ってもらって、化粧や服装を軽く整え、いよいよ撮影に臨む。
おしゃれなアンティーク調の家具やフラワーアレンジメントが並べられた部屋で、見合い写真らしからぬポーズまでして、たくさんの写真を撮った。
直は、一応指示は出すのだけれど、それ以外はほぼ無言で撮り続けていた。
たった一回だけ仕方なさそうに、「チナ、きれいだよ!」と言った――。
撮影後は、美味しい料理をゆっくりいただいて、大満足で帰路についた。
「ねぇ、直、場所代や何やら、相当な出費だったんじゃないの? ちゃんと請求してね!」
「さすが、高給取りの安定職は余裕があるね。でも、今回は大丈夫! 何度かあそこで披露宴の撮影を頼まれたことがあって、支配人とは知り合いなんだよ。花は、昨日パーティで使ったものをそのまま借りただけだし、部屋の使用料もかなりまけてもらった。まあ、一番かかっているのは、俺の出張費かな?」
「食事代はわたしが払ったんだから、あんたの出張費はそれで相殺よ!」
「はいはい、仰せの通り!」
こうして、わたしは準備万端整えて、小林さんとのお見合いを待つことになった。
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