最高のお見合い写真

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 写真は、今回も直が勝手に選んだ。おじさんは、いつもわたしと一緒に選んでくれたのに、直は、「俺の審美眼を信じろ!」と言って譲らない。  だけど、ちゃんと選んでくれていたら、この前のお見合い話も写真で断られることはなかったはずだ。あてにならない審美眼ね!  直から連絡をもらって、二日後に写真館を訪ねた。  「はい、これ」と言って渡された写真は、びっくりするほどいい仕上がりだった。  久しぶりに、きらきらした自分を見せられた気がした。この写真は、ずっと残しておきたいと思った。 「へへぇ、いい出来だろう? 俺が本気を出せばこんなもんだよ。データは、チナの葬式の日まで残しておくから、遺影はこれで決まりな! 痛っ!」  写真は、これから人に見せる物なので、今日は平手で直の頭をはたいておいた。  たまには腕前を褒めて、きちんとお礼を言おうかなと思っていたのに、まったく可愛げがないんだから!  代金はすでに払ってあるので、頭をさすっている直を無視して、さっさと店を出ることにした。それでも、仁義を欠くのは嫌なので、扉のしまり際に小さな声で言った。 「ありがとね、直――」  そして、その写真を中郡さんに託して一週間後――。  小林さんとお見合いできることになった――。やった! 不戦敗は免れた! 「いわゆる正式なお見合いじゃなくて、二人で会いましょうってことでいいわよね。お互いに写真を見て、顔は知っているわけだし」 「その方がいいです。いろいろと気を使わなくてすみますから」  土曜日の午後、Pホテルのカフェラウンジで会うことが決まった。  美容院を予約して、エステやネイルも奮発する。最高によく撮れた写真を渡してしまったから、実物との落差を感じさせないように、精一杯のことをしておこう!  その日の夕方、誰よりも先に、我が作戦参謀に報告するために写真館へ向かった。  扉を開けると、いつもと違う「いらっしゃい」の声がかかった。  カウンターには、あいつではなくて剛おじさんが座っていた。
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