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「ごめんなさい、湊川さん。わたしの方から勧めたのに、こんなことになっちゃって」
「気にしないでください。写真の交換をしただけで、まだお目にかかったわけではないですから。写真で振られちゃったのは、ちょっぴり残念ですけど傷は浅いです」
「そんな! あなたを傷つけたと思うと、本当に腹立たしいわ! それほどの男でもないのに、見合いを断るなんて! この写真のどこが気に入らないっていうのかしら?」
少しばかり気が強そうに見える目元かな?
はっきりと物を言いそうな口かしら?
まあ、可愛らしさとは無縁な顔であることは確かだ――。
「そんなにあちらを悪く言わないでください。北条さんのお知り合いの息子さんなんでしょう? 縁がなかったということで、もう忘れてください」
わたしはお相手の写真が入った封筒を差し出し、自分の写真を受け取った。
写真の人物は、二つ年上のスポーツマンで、なかなかの好印象だった。
会ってみたい――と思わなかったわけではない。でも、写真だけで惨敗!
これで、五連敗! いや、正確には〇勝五敗。
それなりに覚悟を決めて、お見合いをしようと決心したのが一年前。それなのに、いまだに一度もお見合いできていない。写真で断られ、そこまでたどり着けないのが現状だ。
すまなそうに何度も頭を下げる北条さんと喫茶店の前で別れて、わたしは自転車で自宅に向かった。
北条さんは、気を使って隣町の喫茶店を待ち合わせ場所にしてくれた。
別に、アラサー女の見合い話に聞き耳を立てている人もいないと思うけど――。
彼女は、わたしが勤める市の郷土資料館で、週に一回、市に伝わる伝説や昔話の語り部をしてくれている。
しばらくは、顔を合わせても気まずい日々が続きそうだが、これまでどおり接して、今回のことは早く忘れよう。それが大人の付き合いってものだ。
橋をわたり、地元の商店街へ入る。
自宅へ戻る前に、今回の敗戦の責任者にひとこと報告しておくことにする。
わたしは、「徳山写真館」の前で自転車を止めた。
小洒落たアンティーク風の扉を開けると、カウンターにあいつがいた。
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