芙蓉先輩の言うことは絶対!

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「ふ、芙蓉先輩のケアは最高です! 明日からもよろしくお願いしますっ!」  慌てて山口先輩の背中に隠れ震えている僕に天使の微笑みが降り注ぐ。 「あたしなんて、なにも……。でも、声をかけることで村中くんが元気になってくうれたのなら、とっても嬉しい! これからも、一緒にがんばろうね」  ね、と小首をかしげ、照れたように笑う芙蓉先輩を前に何だか少しだけ悲しくなる。  そうか、芙蓉先輩は、キャプテンである山口先輩のことが好きなんだ。  山口先輩の前だけでは、必死に標準語を話していたり、さっきみたいな巻き舌だってしないし、プロボクサー顔負けのボディブローなんて打たない。  山口先輩の前でだけは、函館イチの美少女たるを崩したりなどしないことに気づいたら、胸の奥が少しだけツンと痛くなる。 「俺が不甲斐ないばかりにごめんね、阿久津マネージャーに負担かけちゃって」 「いえ、そんなこと! キャプテンは、チームのまとめ役です! 皆に頼りにされてるんですから……、マネージャーたちも頼りにしてるんです」 「ありがと、いつもその言葉に助けられてるよ。今後ともよろしくね! あと、俺は個人的に村中にめっちゃ期待してるから」 「え?」 「村中、これからは四番を頼んだぞ! 夏は俺が三番に入るって、さっき監督とも話し合った。今日の二安打も長打だったし、これからもっと活躍してくれよな」 「は、はいっ!」 「あ、じゃあ、俺これから相手チームの見送り挨拶に行ってくるから! 二人とも、お疲れ様!」  僕の肩をポンっと叩き、その後マネージャーの頭をよしよしと撫でて、颯爽とイケメン笑顔を振りまいて立ち去っていく山口先輩の背中を見送る。  180センチの高身長、広い肩幅。  芙蓉先輩の正体にも気づいて無さそうな優しい天然イケメンキャプテン。  僕の憧れの人から託された四番というポジションに、その想いに明日から必死で応えていきたい。
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