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「君のポジションはどごだべ? 村中くん」
二年生マネージャーの阿久津芙蓉には気をつけろ。
絶対に目をつけられるな、と入部当時から何人かの先輩らに言われていた。
その意味を、僕は初めて理解する。
「サードです」
「んだね、サードさ。理解はしているわけだ?」
「はいっ、しております!」
黒目がちの大きな目。
その目と同じくらい、黒く艶やかなロングヘアを風になびかせ、仁王立ちで腕を組み、僕を睨み上げた絶世の美少女。
僕の知らない彼女の豹変ぶりに、タジタジとなってしまった。
「クソすぎるべ?」
「え?」
五月の空に響き笑る『クソ』
なにかの聞き間違いかと思ったが、そうではなさそうだ。
函館イチの美少女の口から『クソ』などという言葉が出るのも衝撃ではあったが、その顔つきに背筋が凍る。
冷たい眼差しのマネージャーの姿を初めて見た瞬間だった。
僕の知っている彼女ではない。
僕の中での芙蓉先輩と言えば『村中くん、いっつもがんばってるね、お疲れ様』と首をかしげて微笑む優しい美人だったのだから。
その笑顔で僕の心臓はいつも早鳴っていたというに、今この瞬間の動悸と冷や汗はそれとはまた別物であった。
事の発端が、そもそも僕のせいだということは大いに自覚している。
先ほど僕は練習試合中に重大なミスを犯したのだ。
そのミスをきっかけに、風向きが悪くなり逆転負けで試合は終了した。
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