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後部座席のドアを開けると、汗で前髪がぐっしょり濡れたアレクが蹲っていた。ユンソルはだまってドアを閉め、運転席に乗り直した。
「発車しますよ」
ユンソルはシートに座るように呼びかけたつもりだが、アレクはまだ放心状態でシートの上にしゃがんでいた。
ユンソルはこれ以上何も言わずに車を発進させた。走り始めて30分も経つと、アレクが我に返ったようにシートに座り、「どこに向かってるんだ」と聞いた。
「あなたのために用意されたセキュリティの堅いホテルです。
24時間体勢で警備がつきます。」
「君はどうする」
「……俺は…」
ユンソルは赤信号で車を停めて、何も言わなかった。アレクは咳払いをしてシートに寄り掛かる。
「本当は自業自得だと思ってるな」
アレクはユンソルの真意を覗き見たような口振りで言ったが、彼は目だけ合わせた。
「どうなんだ」
「護衛の対象人に対して、何の感情も持ちません」
「それはマニュアルだね」
「もちろん」
「君の答えを聞きたい。
マニュアル通りの人間を
僕は一人しか見たことがないからね」
ユンソルは青信号で車を発進させた。
「じゃあ、俺が二人目になります。
俺はマニュアル通りです。」
「違うね。
うそをついてる人間は仕事柄、分かるんだ。
君はウソをついてる。」
「…………」
ユンソルの目はルームミラー越しにアレクを見た。
「マニュアル通りって言った…
一人目は誰か聞いていいですか」
アレクは窓の外に目をやり「何の感情も保たないでいい」と言った。ユンソルもそれ以上聞くことはしなかった。
しかし、ユンソルの目がルームミラーから外れない。アレクが「何を観てる」と聞き返した。
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