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episode 60 不完全なモノたち
鏡台の引き出しを開けると、無数の化粧道具がある。その中からコンシーラーとファンデーションを選んだルイが、「はい、こっち見て」という。
チソンはルイではなく、鏡の方をまっすぐ見た。ルイは「もう…」と呆れながら、どこか楽しそうだ。コンシーラーで塗りつぶされていく頬の傷。頬骨を渡る縫い目がまだ目立っていて、しばらく隠す作業を続けている。
「チソンってさぁ…
自分のことを何も話さないよね」
コンシーラーを塗りながら、ルイは呟く。チソンは鏡台の端にある丸い軟膏をみている。ルイは背中の皮膚の一部が焼け爛れていて、その火傷が服にこすれてヒリヒリするらしい。この軟膏は気休めだと言った。
「仕事は何とか…年齢も知らない。
私より若いと思うけど。」
チソンは黙ってめをつむっている。
「話したくないこともあるか」
ルイは今夜もそう割り切った。
沈黙を引き裂くように、着信音が鳴る。
チソンは物が散乱している床から携帯電話を拾い上げ、相手の名前を見た。「非通知」だ。
ルイもその画面を注視している。
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