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「でなくていいよ」
ルイが初めてそう言った。チソンの手首を、ルイの冷たい手が掴む。チソンは黙ってルイの手を見ていたが、やがて片方の手でルイの後頭部を撫でた。
徐々にお互いの顔が近づいていくと、ルイが自然と目を瞑る。ところがチソンは目を開いたまま、ルルイの髪の毛をぐしゃっと鷲掴みにして鏡台に勢い良く叩きつけた。
2回叩きつけると、ルイの顔と鏡台の隙間に赤い何かが糸を引いて伸びる。そのままルイを突き飛ばすと、人形のように床の上にぐったり倒れた。ルイの顔は髪の毛が覆い隠して、何も見えない。ただ低い笑い声のようなものが聞こえた。
まだ鳴り響く携帯電話を握りしめると、チソンは部屋を出ていってベランダに出た。手すりに肘をかけ、電話を耳に当てる。相手から声がするまで何も言わないつもりだった。
「も…もしもし…」
「………エルか」
チソンの肩から力が抜けた。
「い…今…ど…どこに…い…いるの」
「相変わらず、キモい喋り方だな。
吃音は手術で治して貰えないのか?」
チソンの意地悪にも、エルは「ひ…ひひ…」と不器用に笑った。
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