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「あーらら…切られちゃった」
ケイは携帯電話をひらひら見せてから、革張りのソファにぐったりしている医者のポケットに返した。医者は下腹部から血を流していて、それを白いタオルを真っ赤に染めながら止血している。無駄な作業に違いない。
テーブルにおいてある45口径の拳銃を持ち上げ、それを腰のホルスターに差した。エルはソファに蹲るように座っていて、顔を両手で隠している。
「か…彼は…私の…大事な…患者…だ」
医者は息を弾ませながら言う。
彼とはエルのことだ。
エルもまた、チソンを探して病院から出ていった。そこを通りかかった院長の娘に助けられ、台北市まで来たのだ。エルは背骨を矯正したばかりで、娘によるセラピーを受けていたのだ。
強迫性障害と、自閉症が疑われている。
どんな手を使ってケイが見つけ出したのか分からないが、今は院長は致命傷を負い、ケイによってエルは逃げられない状態だ。一目みて、ケイがエルを精神的に追い詰めた元凶だと、院長は分かっている。
「エル、良かったじゃん。
俺以外に、お前を大切にしてくれる人に出会えて」
ケイは蹲るエルに視線を合わせて屈む。顔を覗き込むと、エルは恐怖のあまり腕で顔を覆い隠す。それでもケイは腕を捻り上げた。
エルが素っ頓狂な悲鳴をあげる。
「ひどいよな。
お前のことをこんなに愛してるのに」
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