episode 60 不完全なモノたち

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チソンが部屋に戻ると、ルイは鏡台の前でタオルを額にあてていた。額がわずかに切れて血が滲んだらしい。青痣が広がりそうだ。チソンが戻ると、へにゃっと笑い「おかえり」と言った。 チソンは彼女の後ろを通ってベッドに寝転がる。カラスが騒がしく鳴いていて、カーテンを開けてみた。空を無数のカラスが円を描くように飛び交っている。 「うるせーな」 チソンが呟くと、ルイが「そうだね」と返した。その直後に銃声が響く。カラスが何羽か円から離脱して、違う場所へ飛んでいった。カラスを追い払うために音を鳴らしている住人が、この街にはいるらしい。ここ1週間、その音を聞いている。 「始まった」 ルイが呆れて言う。 「これやってんの、誰」 「ジジイだよ、ジジイ。 占いやってるペテン師で、この時間になるとワンボックスカーで来るの。」 「へえ…」 「頭おかしいんだよ。 カラス撃ってんだもん。」 そのワンボックスカーは向かいのアパートの影になって見えない。首を伸ばして見ていると、1台のバンが目に入った。 以前ブッチが運転していたバンに似ている。ギョッとしたが、そのバンの周りに釣りに行くらしい男たちが集まっていて、チソンは拍子抜けした。 「私、仕事休むわ」 ルイが言う。 「この顔じゃ、二、三日は客とれないし」 チソンはブランケットに包まって頭まですっぽりかぶった。 「どっか行ってくれない?」 チソンがぶっきらぼうに言うと、少し遅れて「うん」と声がした。
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