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チソンが部屋に戻ると、ルイは鏡台の前でタオルを額にあてていた。額がわずかに切れて血が滲んだらしい。青痣が広がりそうだ。チソンが戻ると、へにゃっと笑い「おかえり」と言った。
チソンは彼女の後ろを通ってベッドに寝転がる。カラスが騒がしく鳴いていて、カーテンを開けてみた。空を無数のカラスが円を描くように飛び交っている。
「うるせーな」
チソンが呟くと、ルイが「そうだね」と返した。その直後に銃声が響く。カラスが何羽か円から離脱して、違う場所へ飛んでいった。カラスを追い払うために音を鳴らしている住人が、この街にはいるらしい。ここ1週間、その音を聞いている。
「始まった」
ルイが呆れて言う。
「これやってんの、誰」
「ジジイだよ、ジジイ。
占いやってるペテン師で、この時間になるとワンボックスカーで来るの。」
「へえ…」
「頭おかしいんだよ。
カラス撃ってんだもん。」
そのワンボックスカーは向かいのアパートの影になって見えない。首を伸ばして見ていると、1台のバンが目に入った。
以前ブッチが運転していたバンに似ている。ギョッとしたが、そのバンの周りに釣りに行くらしい男たちが集まっていて、チソンは拍子抜けした。
「私、仕事休むわ」
ルイが言う。
「この顔じゃ、二、三日は客とれないし」
チソンはブランケットに包まって頭まですっぽりかぶった。
「どっか行ってくれない?」
チソンがぶっきらぼうに言うと、少し遅れて「うん」と声がした。
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