episode 60 不完全なモノたち

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ルイはキャミソールの上からパーカーを羽織り、マスクをする。それでも額の傷と痣が目立ち、帽子を目深にかぶった。財布を持ってサンダルを突っかける。玄関にある姿見には、やせ細って貧相で不健康な女がうつる。キャミソールとパーカーの隙間から見える肩は青白い。髪の毛は艶がなくボサボサ。ショートパンツからもやしのようなヒョロヒョロした足。痩せすぎて膝の骨がぽっこり出ている。 何分も見てられない。 ドアを開けて部屋から出ていくと、ルイは薄着で出たことを後悔した。肌寒い。 カラスがいなくなっても、アパートの前にワンボックスカーはあった。例の老人がスライドドアを開けて、何か物をガサゴソしている。その老人のスウェットとジーンズの間に見える背中は灰色で、尻の割れ目が見えていた。 「アンタさあ」 ルイが後ろから声をかけると手が止まる。老人が振り向くと、その顔を見てルイはぎょっとした。目が腫れぼったく離れていて、歯がほとんどない。顔中に吹き出物があって、だらしなく伸ばした顎髭には透明の液体が糸を引いている。 「きったな」 ルイがそう吐き捨てると、老人は歯がない口を開けて笑った。 「人のこと、言えるか」 「アンタよりマシだから」 ルイが立ち去ろうとすると、「おーい」と呼び止めてきた。 「占ってやろうか」 「いいよ、ペテン師!」 怒鳴りつけて、そのまま歩き去る。 老人はしばらくルイを見ていた。
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