episode 60 不完全なモノたち

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ルイが立ち去ってから1時間が経過すると、老人はワンボックスカーのスライドドアを全開にしてシケモクを吸っていた。人通りの増えてきたロータリーを見ていると、さっき追っ払ったカラスが二羽飛んできた。オスの求愛行動か、片方をもう片方が執拗に追いかけている。 その時中型バイクに乗った男がロータリーを回ってきて、ワンボックスカーの手前に停まった。ヘルメットで顔が見えないが、こっちを見ていることは確かだ。 するとドライバーは、老人に指を指した。 「なんだ」 老人がシケモクを地面に踏みつぶす。ドライバーはようやくバイクから降りてヘルメットを外した。額に傷のある恰幅のいい男だった。 「俺を占ってくれよ。」 「ああ、いいよ。 なんでも占える。仕事、恋愛…健康…」 「んなもん、興味はねぇ。 流れに任せて生きてんだ。」 男は老人の誘い文句を一蹴したあと、胸ポケットから上等なタバコを差し出した。 「そんな奴は占いに向かない。」 老人が断ると、男はさらに身を乗り出した。 「人探しは頼めるのか?」 「人探し? 探偵に頼めゃ良いだろうが」 老人の言葉遣いはどんどん悪くなる。だが、男は気にしてないようだった。男の態度も、どんどん馴れ馴れしくなる。ワンボックスカーの後部座席に片膝をついて、ストレッチを始めた。老人は男の筋肉質な足と顔を見ている。 「いや、占いでいい。 占いというより、あんたがいい。」 「なに?」 「コイツを知らないか」 男は写真をジャケットのポケットから取り出した。老人の目がギョロっと動いたのを、男は見逃さなかった。 「知らねーな」 「いや…。嘘はいい。」 「嘘じゃない。」 「いや、嘘だ。」 「嘘じゃ…」 言いかけたところで老人の言葉を遮り、男は肩を掴んで顔を寄せた。 「俺の目を見ろ」
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