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ルイが立ち去ってから1時間が経過すると、老人はワンボックスカーのスライドドアを全開にしてシケモクを吸っていた。人通りの増えてきたロータリーを見ていると、さっき追っ払ったカラスが二羽飛んできた。オスの求愛行動か、片方をもう片方が執拗に追いかけている。
その時中型バイクに乗った男がロータリーを回ってきて、ワンボックスカーの手前に停まった。ヘルメットで顔が見えないが、こっちを見ていることは確かだ。
するとドライバーは、老人に指を指した。
「なんだ」
老人がシケモクを地面に踏みつぶす。ドライバーはようやくバイクから降りてヘルメットを外した。額に傷のある恰幅のいい男だった。
「俺を占ってくれよ。」
「ああ、いいよ。
なんでも占える。仕事、恋愛…健康…」
「んなもん、興味はねぇ。
流れに任せて生きてんだ。」
男は老人の誘い文句を一蹴したあと、胸ポケットから上等なタバコを差し出した。
「そんな奴は占いに向かない。」
老人が断ると、男はさらに身を乗り出した。
「人探しは頼めるのか?」
「人探し?
探偵に頼めゃ良いだろうが」
老人の言葉遣いはどんどん悪くなる。だが、男は気にしてないようだった。男の態度も、どんどん馴れ馴れしくなる。ワンボックスカーの後部座席に片膝をついて、ストレッチを始めた。老人は男の筋肉質な足と顔を見ている。
「いや、占いでいい。
占いというより、あんたがいい。」
「なに?」
「コイツを知らないか」
男は写真をジャケットのポケットから取り出した。老人の目がギョロっと動いたのを、男は見逃さなかった。
「知らねーな」
「いや…。嘘はいい。」
「嘘じゃない。」
「いや、嘘だ。」
「嘘じゃ…」
言いかけたところで老人の言葉を遮り、男は肩を掴んで顔を寄せた。
「俺の目を見ろ」
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