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…
まだ体に穴が空いた感覚が残っている。
時折、冷たい風が体を貫通する。その数秒後に穴の縁が炎のように熱くなる。
毛布にくるまっていたチソンは、重たいまぶたを開けた。時計を確認すると、夕方の5時をさしている。ルイはまだ帰ってきていないようで、それが無性に腹立たしくなった。
ローテーブルにあったガラスのコップを握りしめて、鏡台めがけて投げつける。割れた瞬間にドアが開いて、ルイが顔を出した。
「どうしたの」
ルイは鏡台の割れた鏡とグラスの破片を見下ろしてから、チソンを見た。チソンが何も答えないと、「いいよ、片付けるから」と宥めるように言ってしゃがみこんだ。素手で破片を拾ったせいで指の腹を切ってしまい、「痛っ」と声を洩らした。
チソンはベッドから立ち上がると、のそのそとルイのそばに近寄る。しゃがみこんで血の玉が膨れ上がった指を口に咥えた。ルイは優しい彼を見つめている。指を離すと、ルイは「ありがとう」と言って俯いた。
「どこに行ってたの」
チソンが聞くと、ルイは「え」と聞き返した。
「どこに行ってたの」
もう一度聞く。
「いいところよ、すごくいいところ。」
「…そうか」
ルイは破片を拾い集めると、シンクの上に置いている黒いポリ袋の中に流し入れた。階段を誰かがのぼる音がすると、チソンやルイに緊張が走った。
「…………誰」
ルイが先に聞いてきた。
「開けるな」
チソンはそれだけ言って、ドアの向こうを睨んでいる。
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