episode 60 不完全なモノたち

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… まだ体に穴が空いた感覚が残っている。 時折、冷たい風が体を貫通する。その数秒後に穴の縁が炎のように熱くなる。 毛布にくるまっていたチソンは、重たいまぶたを開けた。時計を確認すると、夕方の5時をさしている。ルイはまだ帰ってきていないようで、それが無性に腹立たしくなった。 ローテーブルにあったガラスのコップを握りしめて、鏡台めがけて投げつける。割れた瞬間にドアが開いて、ルイが顔を出した。 「どうしたの」 ルイは鏡台の割れた鏡とグラスの破片を見下ろしてから、チソンを見た。チソンが何も答えないと、「いいよ、片付けるから」と宥めるように言ってしゃがみこんだ。素手で破片を拾ったせいで指の腹を切ってしまい、「痛っ」と声を洩らした。 チソンはベッドから立ち上がると、のそのそとルイのそばに近寄る。しゃがみこんで血の玉が膨れ上がった指を口に咥えた。ルイは優しい彼を見つめている。指を離すと、ルイは「ありがとう」と言って俯いた。 「どこに行ってたの」 チソンが聞くと、ルイは「え」と聞き返した。 「どこに行ってたの」 もう一度聞く。 「いいところよ、すごくいいところ。」 「…そうか」 ルイは破片を拾い集めると、シンクの上に置いている黒いポリ袋の中に流し入れた。階段を誰かがのぼる音がすると、チソンやルイに緊張が走った。 「…………誰」 ルイが先に聞いてきた。 「開けるな」 チソンはそれだけ言って、ドアの向こうを睨んでいる。
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