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②恐怖のオツボネ・田村千景(たむらちかげ)のネチネチつるし上げタイムでもある、リコーダーのテスト。まぁ、結果は…お察しクダサイ。
ないすふぁいと!と小声で親指を立ててくれる友人たちに、ちょっぴり苦笑いしながら、わたしは音楽室の窓から見える隣のクラス…わたしは二組なので、一組も三組も隣って言えるんだけど…その一組のほうが、体育らしい。
さっきのあの二人……御国(みくに)くんと……彼女、は三組だからいない。
それをまず、確認したから、(ああ、一組なんだな)って分かったっていうのに。なんとなく。あるはずのない二人の影を探してしまう。
二人、というか。正確には、一人なんだけど。
……彼女は。
……ピンクのストールが欠かせない美少女は、先週転校してきたばかりで一気に超有名人の一人になっていたすごい人。
しかし、家族構成とか、趣味とか、習い事とか、そもそも家がどの辺とか、そういう話を全く聞いたことがない、ちょっと不思議な人でもある。
だから、さっきの光景は、彼女の知らない一面を……いや、同じクラスなら日常かもしれないが……知ったように感じて、なんだか少しワクワクする。
彼女は。彼女は、もしかして…。
「大食いなのかな…」
小声でつぶやいて、そっと窓から教科書に視線を向け直す。
でも、頭にあったのは、想像の中で嬉しそうに、てんこ盛りのお菓子を口に詰め込む彼女の姿だった。
……あれ?でも…さっき食べてたのは、他の子たちと御国くんだったから……?
「やっぱりちがう…?」
途端に音楽室いっぱいに響き渡る不協和音。
は、と慌てて口を押えても遅かった。みっしりと眉間にシワを刻み込んだオツボネ様が、怒りの表情でオルガンの前から、立ち上がるところだったから。
「三好咲子(みよししょうこ)サン?」
「は、はひっ…」
「センセイの演奏の邪魔をするってことは、この曲についてカンペキな予習でもしてきてくれたのかしらァ?」
「えっ…」
「センセイの代わりに説明してくださらない?」
「ええっ?!」
「だって『やっぱり違う』ンでしょう?センセイの演奏と説明じゃ役不足なのかしらねぇ?」
もちろん予習なんてやってない。だって、ズタボロだったリコーダーのテストだってついさっき授業が始まる寸前に思い出したくらいだ。
黙り込むしかないわたしに、わざとらしい大きなため息を吐いて。オツボネ田村は、放課後の居残りを命じた。…もちろん、わたしだけに。
あーあ。やっちゃった……どぉしよ……。
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