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「だって……、あの時、友理奈ちゃんが良い感じになってるから告白しようと思う、て私に言ってきてて、それで、その2週間後に付き合ってたし……確か、それも2年生の時じゃなかった?」
「いや、確かに告られたけどさ、あれはお試し付き合いで1週間限定でデート1回してときめかなかったら付き合えないって言ってたやつでちゃんとは付き合ってねぇよ俺!? あ! そうか、だからあの時妙に女子全員がよそよそしかったのか……ておいおい、待てよ、じゃあお前が俺の呼び出しに応えなかったのもそれか?」
「うん。だって、友理奈と仲いいのが私だったから、友理奈の相談をするんだろうなって思って。だから、全部断ったし、行かなかったの。好きな人の好きな人の相談なんて聞きたくないじゃない」
「まぁ確かにそれはそうだけ……ど…………え?」
「あ」
酔いとは、本当に恐ろしいものです。
無自覚に私も過去の思いをぽろりと告白してしまいました。
お互い家庭をもっているのだから伝えても意味のないことなので何も言わず胸に秘めたままにしようとしていたのに、お酒の勢いというのはブレーキが壊れるものなのでしょうか。気づいてすぐに口をおしぼりで再び覆いましたが、一度出た言葉は戻りません。恐る恐る大智君の顔を横目で見れば、ポカンと口を開けた情けない顔で私を凝視していました。このままでは私に穴が空いてしまうのではないかというほどに。
「そう……か」
そう零して、緩く口角を上げた大智君と私の距離が、縮まりました。
大智君が、私の方へ身を寄せたのです。
「でも、所詮、過去だから」
大智君のホワイトムスクの香りに戸惑いながら視線をテーブルへと投げるけど、テーブルの上には先ほど私の下着の紐を撫でた手があって私の心臓は妙な跳ねあがり方をしていました。もうまともに彼を見れないと判断した私がみかん酒を手に取り残りを流し込むと、大智君がいない側の腰に温もりが生まれました。官能的に動く指が、私のワイドパンツ越しに下半身の下着の輪郭に触れていました。
「でも、俺ら、両片思いだったんだな」
彼は何を考えているのでしょう。
どうして耳元に息がかかるほどの距離にいるのでしょう。
私は大智君の方を向けません。
自分がどんな顔をしているかもわかりません。
離れて、と言いたいのに動けません。
これは緊張なのでしょうか。手指が震えます。言葉を発そうとする唇も震えます。
左半身に感じる大智君の体温に、心が震えてまともに思考が働いてくれません。
「ね、ねぇ、離れ――」
ああ。
私の言葉は、彼の口内に吸い込まれてしまいました。
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