5.だから私は、悪い女になりきろうと思います。

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 息子が小学二年生になり、娘が1歳半になった頃。  米田君の一家とは家族でのお出かけが月1ばかりになっていました。たまに男同士、もしくは女同士の飲みというのがありましたが、米田君と2人での飲みはあれ以来なくなっていました。突然パタリとなくなると怪しまれますが、仕事を始めたタイミングが重なっていたことと、「家族の時間を優先したい」と私がぽつりと零すことが増えていたので、旧知の仲の2人の飲みが自然消滅するのは年齢的にも家庭持ちとしても”自然”として受け止めてもらえました。  そして、私の家庭では、前まで綺麗であった家が、着替えやものが落ちてばかりなのが当たり前となっていました。  ゴミは落ちていないし、空気も清潔で、匂いも悪くはない室内だったのですが、以前の物一つ落ちていない綺麗な状態を知っている旦那にとっては、どうも腑に落ちない点があったのでしょう。だからこそ、仕事を初めて半年経ったこの頃に、言われました。 「仕事なんてやめてしまえ」  どうして、と尋ねる前に「お金は俺の稼ぎで充分だから家庭をしっかり守ってほしい」と畳み掛けられました。そこに、私の意見の有無を伺うような様子は一切ありませんでした。  私の旦那は、出来た人です。  家族目線の贔屓でもなく、私の旦那は芯があって高収入で家族思いのとてもいい理想の男性といえるハイスペックな人です。  ただ、自分の考えを一切曲げない頑固な人でもありました。  だから、私の旦那は少々強引な所があります。少しでも反論しようものなら、5倍ぐらいに増幅した言葉の剣で返されます。物言いがいつもストレートなのでそれは本当の刃のごとく人を傷つけるらしく、時々『俺は人の心をわかってない、て時々上司に言われる』と愚痴をこぼすほどなので、中々のものなのでしょう。それは、いつもは私たち家族を守る盾ですが、時には今の様に私に対して向けられることがあります。滅多に向けられることはないので、突然向けられた私は、とても、吃驚していました。まるで、別人のような物言いと空気でしたので。  確かに、私の家庭はお金に困っていません。  でも、私は辞めれないのです。  米田君一家との繋がりが未だ続いているからこそ……いえ、これからも円満な仲良し家族として続けていきたいからこそ、私は辞めてはいけないのです。 「お金とかじゃなくて、働くのが楽しいの。だから、私は働き続けたい」 「それで家のことが疎かになったら意味ないじゃないか。まだ小さい愛菜がいるんだ。子どものためにも家を綺麗に保つことに専念するのが母親として、主婦としての務めなんじゃないか?」 「そうね。働くとどうしても心身が疲れちゃうし家のことには手が回らなくなってしまうわ。でも、だからといってゴミ屋敷のようにはしていないでしょう?」 「カバンとか服とかで足の踏み場がないことはゴミ屋敷と変わらないと俺は思っている。気づいた時に片付けてもすぐにまた落ちていたら流石に俺も腹が立つ。なんで稼いでいる俺の方が片付けてばかりなんだ、いい加減嫌になってくるのは当たり前だ。働き続けたいならそういったことがないようにしろ。じゃなきゃ働くのを辞める方がいい」
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