5.だから私は、悪い女になりきろうと思います。

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「わかったわ。家のことにもっと気を付ける。でも、私が疲れた時は家事を手伝ってほしい。共働きってそういうものでしょう?」 「だから、俺が、お前を働くことを必要としてなくて家にいていいと言ってるんだ! 俺に養われるだけでいいって言ってるだろう! 俺は結婚する時に家のことは基本お前に任せたいと言っていた筈だ。勿論最低限のことはする、今だって全部任せているわけじゃないだろう。風呂掃除や俺の部屋の掃除は俺が基本になっているじゃないか。俺は働き続けていても変わらずやり続けている。けれどお前はどうだ? 働き始めたことによって前のように保てていないじゃないか。なら、金が大丈夫なら働くのを辞めて家の方に専念するのが当たり前だろう。どうして働くことに執着しているんだ!」 「私を家に縛り付けようと執着しているのは貴男の方じゃない? 自分が自由に使えるお金があった方が私も安心するの。それに年を重ねていったら何が起こるかわからないじゃない。だから、将来の安心のためにも私は今のいい環境の職場で働いていたいの」 「将来じゃなく俺は今の話をしているんだ。俺がいいって言ってるだろう。なんでそんなに意地になっているんだ!……いや、もういい。わかった。そうだ、別にお前の許可なんて求める必要ない」  子どもたちが寝静まったとある夜。私は旦那と口論になっていました。思えば、この口論はお互いが無駄に意固地になっている子どもの喧嘩のようなものでした。口論している間、私は頭の中で『なんてくだらない言い合いなのだろう』とわかってはいたのですが、自分の意見をこうもずっと否定されると流石の私もカチンときてしまいどんどん言い返してしまっていました。心もざわざわと落ち着かない状態になってしまい、かなりヒートアップした口調となっていたことでしょう。  その結果、旦那が強硬手段に出たのです。 「え、ちょっと、なんで私のスマホを持っていくの?」  口論を諦めたかのように見えた旦那は、突然、テーブルに放置されていた私のスマホを手に取り背を向けたのです。流石にそれには心の底から焦ってしまった私は思わず旦那の腕を掴み、この場から去ろうとする動きを止めました。旦那は止まって振り向いてくれましたが、私に向けられた目はとても冷ややかで、私は思わず息を飲みました。その際に手の力も緩んでしまったようで、旦那が軽く腕を振っただけで私の手から離れてしまいました。 「電話する」  視線と同じくらい冷ややかな言葉に、どこに、と聞かずとも察してしまった私の顔は恐らく青くなっていたことでしょう。
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