1.高校の時に同級生だった私たちは大人になって出会いました。

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 旦那の視線を感じた私はすぐに意図を汲み取り、旦那と手を繋いでいた息子へ視線を落としました。いつの間にか私の膝にしっかりとしがみついていましたが、興味深そうにあちらの家族を見ている息子の目は好奇心でキラキラとしていました。その姿はとても可愛らしくて、愛しさがこみ上げて止まない私は緩む頬をそのままに娘を抱えながら息子の目線までしゃがみました。 「この子が私の息子。信二(しんじ)っていって、今年の春から小学1年生なの。そしてこっちが私の娘で、愛菜(まな)。大体生後半年ぐらいの子よ。ね、2人とも、あの人はお母さんのお友達なの。ほら、こんにちはって、ご挨拶できるかな?」  娘は私の顔を見ながらパチパチと瞬きをするだけでしたが、私の穏やかな声音に緊張が少し解けた様子の信二が一歩前に出て「こんにちは」とぺこりと頭を下げました。親バカかもしれませんが、綺麗なお辞儀で挨拶する息子に私の胸は可愛さと誇らしさでいっぱいになりました。 「おー! すげぇ、さすがたな……あー……と、美愛さんの子どもだな! しっかりしててすげぇや。あ、ちなみにこっちが俺の妻で(かえで)。楓、急に立ち止まってすまんな、同級生に会えて嬉しくってついつい」  美愛さん。そんな風に呼ばれた記憶がない私は頬に妙な熱さを感じました。ああいけない、と思っていても、一度熱をもったものはそう簡単に冷えてはくれないものです。赤くなってないかしら、と私がせめて少しだけでも隠そうと掌の甲を頬に当てていると、楓、と紹介された女性が「どうも、夫がお世話になってます」と目を釣り合げながら私を見下げるように言いました。私がしゃがんだままだったので見下げる形になったのは仕方ありませんが、吊り上がった目をしていらっしゃったので迫力の凄いこと。整ったお顔でもありましたので、私は見上げながら、綺麗な方ね、と思わず彼女に魅入ってしまいました。 「ほんで、こっちが娘の葉月(はづき)で小学一年生。もう一人子どもがいてこの子は9月生まれの女の子で(こと)だ。……て、あれ? あ、すげぇ! 俺らの子ども同い年なのな! すっごい偶然があるもんだ!」  自分の家族を紹介し終えてからハッとして、それから嬉しそうに破顔して笑顔を輝かせる米田君に、私も思わず顔を綻ばせながら立ち上がり「あら、本当。2人ともだなんて、そんな偶然があるのね」とついつい言ってしまいました。そんな私に旦那は少し不機嫌そうでした。恐らく嫉妬しているのでしょう。わかりやすい表情を人前であろうとしてしまうのが本当に可愛い人です。あとで何かご褒美をあげないといけないな、と思いながらふと米田君の方を見ると、隣に立っている楓さんと目が合いました。どうやら、彼女も今の状況を好ましく思っていない様子です。けど、その視線から悪意はあまりなく、どちらかというと手に汗を握る様な緊張を感じました。どうしたのだろう、と思った私は、目線を外さぬまま微笑んで首を傾けてみました。すると、彼女は頬の上部をほんのり赤く染めて「あのっ」と声を上げました。
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