1.高校の時に同級生だった私たちは大人になって出会いました。

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「お宅の愛菜ちゃん、もうお座りができるんですか?」  琴ちゃんを抱えながらずいっと前に出てきた彼女に私は驚きましたが、その目は真剣そのものでした。まるで文句を言うような口調でしたが、どうやらそれは緊張のあまり声が上ずったのと、元々見た目が凛々しいお方だからそう見えてしまうのでしょう。でも、どうしてお座りができるとわかったのでしょうか?  ふと、私は愛菜を見ました。  そして、納得しました。愛菜が大人しく抱っこされてくれないから、抱っこひもで下半身だけ覆い私の左腕に腰かけるように座らせ、落ちないように背中を支えるという抱き方をしていたのでその様子を見て言ったのでしょう。確かに、まだ半年とはいえ下の子だからか成長の早い愛菜。それに比べて、楓さんの腕の中にいる琴ちゃんは生後3か月までよくやっていたゆりかごのようにいつでも揺らせる横抱き。同い年、とわかったのに成長の違いは見るに明らかでした。それゆえに、恐らく不安になったのだろうことを察した私は「ええ。なんだか生き急ぐかのように色んな事をしたがる子で」と、出来るだけゆったり、優しいトーンを意識して返しました。すると楓さんは「ずりばいは」「食事量は」「言葉に対する反応は」「言葉への理解度は」とどんどん尋ねてくるではありませんか。どうやら子育てに悩みがあったようです。私ができるだけ詳しく答えている間、ふと、傍の時計が目に入りました。屋台の間に立っている棒一つに支えられた時計。その時間を見ると、出会って話し始めてから20分ほどは経っていることに気付きました。その(かん)、置いてけぼりの旦那と子どもたちはどうなっているのでしょうと思い出し、私は焦って子どもと旦那の方を向きました。  でも、その些細な心配は杞憂でした。 「今度一緒に遊ぼうぜ」 「じゃあ、私のお家にくる? お姫様ごっこ、一緒にしたいなぁ」 「あー、じゃあ俺お姫様を守る騎士になるよ。かっこいいし」 「本当!? やったぁ!」  信二は社会性があるとは思っていましたが、どうやら女の子の心を射止める才能もあったようです。我ながら罪深い息子です。お姫様ごっこ、といった可愛らしい遊びに素直に付き合ってくれるような男の子は初めてだったのでしょう。葉月ちゃんの可愛らしいぷっくらとした頬が桃色に染まっていました。
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