3人が本棚に入れています
本棚に追加
花畑を抜けた先には思った通り、小さな村があった。
見たところ数百人程度が暮らす平凡な村だ。
特に変わった様子もない、ただ一つ、ここが禁忌と呼ばれる森に囲まれる妙な場所でなければ、だ。
村が滅ぶのは一瞬だった。
元々敵国の小さな村一つ。わざわざ落とす必要もないが、見逃す道理もない。
それに、ここはやはり奇妙な村だった。
村人たちも逃げ惑う様子はあったものの、本気になれば逃げだせた人はいたはずだ。
この規模の村、たった四人で乗り込んで、一人も逃亡者を出さないようにするのは現実的ではない。
なのに村は全滅した。
ただの一人も逃亡者を出さず、生き残りもいないだろう。
あまりにも簡単だった。
簡単すぎた。
まるで、滅ぼされることを待っていたかのような…。
全てが終わり村を立ち去ろうとした時だった、村の外に人影を見つけた。
背格好からして小柄な女だということは察知がついたが、近づくにつれてまだ幼い小娘だと分かった。
「お前も運がねぇな。村の外なんかに出てなきゃ、みんな一緒に仲良く逝けただろうに…」
その言葉は本心だった。
ぼんやりと頭を垂れて立ち尽くす少女に向けて出た言葉。
おそらくこの村で生まれ育ったのだろう。
親族も知り合いも住んでいた家すらも皆燃えて、たった一人生き残ったところでこの小娘がこれから送っていく人生なんて、真っ当なものじゃない。
それならばここで、皆と同じところに送ってやる方が幸せってもんだろう。
ゆっくりと右腕を振り上げ剣を構えれば、少女は静かに瞳を閉じた。
そこで、ふと奇妙な感覚を思い出す。
こんな小さな村で、人が一人いないことを気づかないことがあるのか。
この娘が村の外にいることを、村人たちは知っていた?
であればなぜ助けを呼ばなかった?
何とかして娘に知らせれば、外から応援を呼ぶこともできただろう。
それでも知らせなかった理由は…?
決して本気で抗わず、村ごと滅ぶ運命を選んだのは、
この娘一人を、逃がすため?
男の中でその答えが頭を過った時、頭を垂れ、諦めたように目を閉じていた少女がゆっくりとその顔をあげ、男の目をヘルメット越しに見やった。
黒髪を揺らし、陶器のような白い肌の中心で光る息を飲むほどに美しい金色の双眸。
それを見つけた瞬間に、なぜだか男の中で先ほどの推測は確信に変わった。
「殺すのはやめだ。お前は連れていく。」
見開かれた金色の瞳の中に、己の血塗られた赤色が映り込んだ気がした。
最初のコメントを投稿しよう!