あたし

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あたし

 今頃彼女は、あの男と会っているのだろうか。そう思って時計を見た。ちょうど男と待ち合わせた時間だ。どうなるのか見ていたい気もしたけれど、あえて見に行くのはやめておくことにした。そういうのは、あとの楽しみに取っておくべきだ。  きっと彼女は、あたしのふりをして彼に会いに行くだろう、という確信があった。彼女はそういう人なのだ。親友のふりをしていたけれど、彼女があたしを嫌っているのはもちろん知っていたし、あたしもまた本当は彼女のことが嫌いだった。ただ、嫌いだからこそ関わりを続けたのだ。あたしの知らないところで彼女が幸せにしていたりするのはなんだか嫌だったからだ。  とはいえ、あたしが直接彼女を苦しめるのも嫌だった。あくまであたしは彼女の親友であって、彼女を大切に思っている、そんな立場でいたかった。だからこの計画を立てたのだ。  もちろん最初からそんなことを考えていたわけではない。たまたまマッチングアプリで知り合った男が、とてもひどい男なのだと知ったのがきっかけだった。あたしはあえてその男とやり取りを続け、デートをする約束をした。  あたしは彼女が好きになった人をよく奪っていたから、彼女は、逆にあたしから男を奪おうとするだろう。彼女はきっと、あたしのふりをしてあの男に会いに行く。その男に何をされたとしても、それは彼女の自業自得なのだ。
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