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 あたしね、この人と会うの!  そう言いながら、スマホの写真を見せてきた彼女の笑顔が頭に浮かんで、私は少し意地悪な笑みを浮かべた。彼女は私のことを親友だと思っているみたいだけれど、私はむしろ、彼女のことが嫌いだ。そして今、私は彼女の代わりにその男のことを待っている。彼女のふりをして、その男と先に会い、自分のものにしようという計画だ。  彼女はその男について、私に何でも話してきた。最初にマッチングアプリで知り合った時のことから、その人がどんな人なのか、どんな話をしたのか、そして今日その人に会う場所や時間も、会ってどうするのかという話も。  もちろん彼女のふりをするなんていうことは、最初は考えていなかったけれど、でも、彼女が自分の写真を相手にまだ見せていないのだということ、そして本名ではなくあだ名でしかやり取りをしていない、ということを知って、私はその計画を考えたのだ。その写真の男は、私の好みだったし、彼女からの話を聞く限りでは性格もよさそうだった。その男を自分のものにしたいと、そんなふうに思ったのだ。  もちろん、普通ならそんな簡単にいく計画ではない。けれど、彼女の話を聞いている限りでは、うまくいきそうだった。待ち合わせの場所に、彼女はわざと遅れていくという。あえて遅れることで、いい関係を作るのだとかよくわからないことを言っていたけれど、それなら私が時間通りに行けば、その男と先に会えるのだ。そして先に会ってどこかに行ってさえしまえれば、私がその男を自分のものにできる。  私が彼女を嫌いな理由はいくつかある。そのうちの一つは、彼女がもてることだ。たいていの男は彼女の方についていく。私が好きになった男も、ほぼみんなが彼女の方に行った。そして彼女は、あえてそうなるように仕向けているようでもあった。これは私の被害妄想なのかもしれないけれど。  そんなふうに私が彼女のことを嫌っているのに、彼女はそんなことに気付く様子もなく、私に親しく関わってくる、というところが、彼女のことを嫌いなもう一つの理由だ。単にそういうところが嫌だというだけでなく、そんな彼女と一緒にいることで、自分が余計にみじめで心の狭い人間に思えてしまうから嫌なのだ。  それなら彼女から離れればいい、とも思うけれど、そう簡単にいかない事情もある。大学時代からの知り合いで、かつ職場まで同じになってしまったのだ。つまり共通の友人が多くて、簡単に避けられない関係なのだ。  そんなことを考えていると、ますますこの計画をうまくやり遂げたいと思った。きっと、男を私のものにして、彼女を悔しがらせてやる。  こんにちは、と声がしてそちらを見ると、その男が立っていた。こんにちは、と答えて私は笑顔を作った。
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