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空想の世界
ミミの小学校は、子どもの脚だと、1年生では行きは1時間以上。6年生でも45分ほどかかる山の上にあった。
帰りは下りになるので、もう少し早く着くのだが、誤差の範囲でしかない。
この結構な長い登下校の時間、元々一人でいることが好きなミミは、友人に誘われれば一緒に登下校したが、そうでない時には一人で歩いていることが多かった。
ミミは学校への下校時に、学校の近くを歩いていたはずなのに、気が付くと家の近くを歩いていたという事が多かった。
逆もまた然り。大変なはずの登校時の上り坂を覚えていないことが多かった。
まるで空を飛んだみたいに、ミミはあっという間に家や学校に着いているのだった。
時間も普段よりはとても早い時間でついているので、ミミは自分が会話を交わしている主人公たちと、時空を超えているのではないかとすら考えた。
ミミは色々な空想するのが大好きだった。
自然豊かな田舎の農業専用道路が通学路になっていたので、四季の移ろいが美しいその道を、漫画や、小説で読んだ主人公やサブキャラと一緒に歩く。
頭の中で一緒に帰っていると、自然豊かな道路にいたはずが、家の近くの車通りの多い場所に出て来ていたりするのだ。
子供のころのミミには、読んだものの世界が自分のすべてのようなところがあった。
家は店で忙しく、父親は外出がちで、母親は店員さんや姑、小姑の相手で忙しく、ミミの相手をしてくれるのは、大好きな読書で読んだものの中にいる人や動物だった。
自由に言葉を交わし、決してミミに嫌なことは言わない。
そんな時、ミミもその世界の一人に化けているのだ。
大人になって、うつ病になって、その頃の事を医者に話すと
『解離性健忘』
という病名がつけられてしまうのだが。
では、あの早く時間が過ぎて、短時間で家に帰れたり、短時間で学校に着いたという事実はどこへ行ってしまうのかと思い、ミミはあの頃の不思議な出来事を、病名で片付けられない。
事実では裏付けられない何かが、ミミを別の時空に連れて行ってくれていたのだと、老人と呼ばれる年齢になった今でも考えてしまうのだ。
【了】
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