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井野が工場の傍らにあって、積み上げられたコンクリート壁に囲まれた、危険物の貯蔵の為に設けられた小屋で、PCで打ち出した在庫管理表とにらめっこして、
「勉強して資格を取っても賃金は上がらず余計な仕事が増えるだけ『資格を取ると貧乏になります』って本当だ…」
と、独り言ると
「何かお困りごとはありますでしょうか?」
黒髪のおかっぱ頭に黒縁の眼鏡、黒い背広の出る所は出て引っ込む所は引っ込むナイスバディ、禍金 忌離子が声を掛けてきて
「うほっ♡貴女は?」
目を輝かせ
「申し遅れました私こう言う者になります」
渡された名刺を見て
「禍金機械商会ですか、購買課は工場の本棟に在る事務所の方で…」
(俺なんかはお呼びで無いか)と残念そうにして、名刺を返そうとするが
「いえいえ、禍金機械商会では、機材や消耗品の販売だけではありません、萬、工場のお悩み事を承ります」
禍金が言うと、井野は小屋の中に立ち並ぶドラム缶を見据え
「愚痴になりますけど、こう言う難燃性の工業用油脂の類いも、一定量以上を保管するには、危険物取扱者の免許所持者が工場に一人は必要になるんです。世に言う法令遵守ですね、前の火元責任者で乙4危険物の有資格者が引退して、俺が工場の為に勉強して頑張って努力して会社に尽くして資格を取っても、鐚一文賃金も上がらないって…使えない部下に、無能な上司、上がらない賃金に、自分の業務以外の、あっちの穴埋めに、こっちの尻拭いで、連日のサービス残業。もう、何もしたくない、死にたいですよ」
溜まっていた物を吐き出し
「それでしたら、こちらを…はいっ!『ヤル気スイッチ』」
禍金は声を高らかに上げる
井野は禍金に渡された小さな布袋を繁々と掌の上で見て
「ヤル気スイッチ…ですか、神社の御守りにしか見えませんが?」
感想を述べ、顔を上げると、其処には、もう禍金の姿は無かった
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