61人が本棚に入れています
本棚に追加
自分の名前を知っている見も知らぬ青年を前にして、宙子の頭は混乱していく。青年はそんな宙子を安心させるためか、ふわりと優し気に笑った。
「私のことを、覚えておられますか?」
そんなことを言われても、宙子にまったく心当たりはない。しげしげと男性の顔を見ても、誰の面影とも重ならない。
何も答えない宙子を責めもせず、その人はシャッポを優雅な所作でぬぎ胸にかかげた。
「あなたは、私にとって必要な方なのです。お迎えに参りました」
青年の言葉はけっして外国語ではない。日本語なのに、その内容を宙子はちっとも理解できなかった。
最初のコメントを投稿しよう!