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「嵯峨野さまとうちは、昔も今もなんの御縁もございませんのに、急なお話でなんと申せばよいやら……」
「まあ、無理もない。わしも数日前に言われて仰天した次第でね」
「しかし、あちらとうちではあまりに家格が違いすぎます。お支度も満足にはできかねますし」
名家へ嫁ぐとなれば、それ相応の嫁入り道具をそろえないといけない。衣装だけでも、箪笥を何棹も新調し着物を詰め込まなければならないという。
そんな大金は、このうちにはない。
「まあ、その辺はあちらがすべて費用は出すとおっしゃっている。お嬢さんは身ひとつで輿入れされるといい」
「しかし……」
父がしぶると、上司は親し気に父の肩をたたいた。
「まあまあ、娘さんを心配する親心はわかりますよ。でも、こんないいお話がどこにあるかね。忠臣さまの人柄はわしが保証する。留学から帰国後は外務省に出仕されていて、そのうち公使に任命されるのは確実。そのうち夫婦そろって外国で暮らすことになるだろう」
「はあ……外国暮らしですか」
父は自分の想像を超える話に、頭がついていっていないようである。
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