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階段をのぼると、目の前に大成殿が姿を現した。大成殿の前庭で忠臣はようやく歩みをとめた。
「ここを、覚えておいでですか?」
「はい、昔来た覚えがあります。でも、とても小さな時だったから」
「では、そこで出会った男の子のことは?」
「男の子?」
「そうです。あなたの質問ぜめに答えた男の子がいたはずです」
あいまいだった宙子の記憶が、だんだんと日の光を浴びたように鮮明になっていく。
そうだ、ここで珍しいものをいっぱい見た。大きな金のしゃちほこや、動物の剥製。それらの剥製をひとつづつ指さし、なんていう名前だと聞いたら、年上の男の子が笑いながらすべて答えてくれた。
あの優しい男の子は、誰だったのだろう。
「わたしは、たしかここに母と姉と来たはずなのに」
「あなたはあの時ここで、はぐれたのですよ。私がどうしたのって訊いたら、あっけらかんと『かかさまとねねさま、どっかいっちゃった』とおっしゃっていました」
「あなたが、あの時の男の子?」
忠臣は、ようやく答えにたどり着いた生徒をねぎらうように微笑んだ。その笑顔の片隅に、あの時の男の子の優しさが滲む。
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