第一章

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 たった九つの男の子が、五つの女の子のことが忘れられないなんてことが、あるわけがない。  ふと、嵯峨野家の化け猫の話を思い出す。  化け猫に食われた奥方さま。ひょっとしたら、わたしも化け猫に食われるのかもしれない。化け猫への餌代わりに、わたしが選ばれたのなら納得もできる。そうならば、この人の思いを突っぱねるのが道理。  しかし宙子は、忠臣の望む通りの返答を口にしていた。 「うれしいです。わたしもあの時の男の子のことが忘れられなかった」  宙子の言葉に忠臣はすっと右手を差し伸べ、くしゃりと端正な顔をくずして笑った。 「では、結婚していただけますね」  宙子はしおらしくうつむき、嵯峨野家の若き当主の手にそっと自分の手を乗せた。その手が意外なほど冷たくても、宙子は離さなかった。 「はい。不束者ではございますが、よろしくお願いいたします」  結婚もせず青山の家にいても、自分を殺すことに変わりはない。同じ殺されるなら宙子として、殺される方がましだ。でも、ひとつだけ確かめたいことがあった。 「あの、お尋ねしたいことがございます」 「はい、なんなりと」
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