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華族の婚姻には、宮内大臣の認可が必要だった。制度上華族は平民との婚姻をゆるされているが、当主の奥方ともなればその例からもれる。
娘の視線は隣に立つ母から、真珠と花飾りが散りばめられ豪華なドレス姿の宙子へ移る。流行りのバッスルスタイルのドレスは、お尻のあたりが大きくせり出し腰は折れてしまいそうなほど細かった。
「ああ、わたくしも小さい頃に忠臣さまに出会っていたら……」
娘は忠臣の一歩後ろにつつましく控えている宙子を見て、うっすらとあざけりの笑顔を張り付かせた。
「馬鹿なことおっしゃい」
母は一応、娘をいさめたが同じような嘲笑を浮かべた。
元旗本の士族の出である宙子にとって、侯爵家との縁組は身分を越えた婚姻でありローマンスであった。その分、妬みの視線を一心に浴びることとなる。
宙子の容姿はけして劣ってはいないが、忠臣のような華のある容姿とは言いがたい。
切れ長の目は幾分つり上がり、眉は太く口の端が垂れている。一番いけないのは、髪が赤く縮れていることだった。
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