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耳に蝉の鳴き声が流れ込んできて、疲れ切った宙子の背中に汗が一筋伝う。
「お疲れになったでしょう、お茶を一服いかがでしょうか」
ドレスの注文をあらかた終えると、宙子は体の至る所を採寸されずっと立ちっぱなしだった。
嵯峨野家の書生をしている古賀がお茶を運んできた。人懐っこい笑顔が、大人と子供の狭間にいるもの特有の青さを感じる。大きな二重の目がよけい幼く見せるのかもしれない。
「ありがとう存じます」
礼を述べ、宙子は玉露を口にふくむ。さすが侯爵家だ。よい茶葉を使っているのか、渋みの少ない玉露の甘味が宙子の喉をすべっていく。
「思いのほか、早く終わりましたね」
若い古賀は、女性の誂えともなれば時間がかかるものだと思っていたのだろう。
「この子は、素直な子なので、わたくしの言うことはなんでも聞いてくれるのですよ。だから、ドレスも迷うことがございませんでした」
母の言い分に、古賀はあやふやな表情をする。まるで、この母親のドレスを仕立てているようだとでも思ったのだろう。
「仲がよろしいのですね」
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