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古賀は当たり障りのないことを言い、場を取り繕った。気さくな青年だが、少々口が軽い。使用人の立場を越えている。
そういえば、書生の傍ら忠臣の秘書もしているとさきほど言っていた。それだけ、忠臣に近い人物なのだろう。
書生と言っても、親の身分はさまざま。この古賀は、ひょっとすると嵯峨野家の重臣の家柄なのかもしれない。そうであれば、この物おじしない態度も納得できた。
「ほほ、仲がよいというか、わたくしはこの子がかわいくて」
「それはうらやましい。僕は兄弟が多くて、親に手をかけてもらった覚えがございません」
「まあまあ、男の子だと仕方がありませんわ。うちにも息子がおりますけれど、手をかけると嫌がりますのよ」
母は古賀の態度を不快に思うどころが、好ましく思っているようだ。会話をやめる気配がない。
「ご兄弟は、何人いらっしゃるのですか?」
宙子の額には、だんだんと嫌な汗が浮いてくる。
「三人でした。この子が一番上で、次は妹、一番下は跡取りの男子です。妹はコレラで亡くなってしまったのですけどね」
「妹さんを亡くされていたのですね。それは、大変なご心痛でしたでしょう。」
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