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昨今の西洋化熱に浮かされ、西洋人のような赤い髪は美しいと言われるようになったが、それはあくまで建前である。
まだまだ大和撫子は、濡れ羽色の艶髪が美の基準であった。
今日の宙子のドレスは淡い藤色で、束髪に結われた赤い髪に似合っていないこともまた、嘲笑の的になっていた。
『どうしてこんな娘が、嵯峨野家の花嫁に』
そんな内心が顔に出ている親子から数歩下がったテーブルでは、忠臣の学習院時代の同級生たちがシャンパン片手に塩漬けの牛肉をつまんでいた。
忠臣は十五の年からイギリスに渡り、医師の家に下宿をしながらオックスフォード大学に入学するほどの才人であった。
「しかし、忠臣も留学から帰って早々に嫁をもらうとは、せっかちな奴だな」
黒縁眼鏡をかけた男が、隣に立つ蝶ネクタイの男に話しかける。
「忠臣もさみしかったんじゃないか? 姉上や妹があんなことになって……」
「まあな。俺たちもびっくりしたよ。続けざまだったからな。コレラにでも罹ったのかな」
黒縁眼鏡の言葉に、蝶ネクタイの男は目を細める。
「おまえ、知らないのか?」
「えっ、何をだよ」
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