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雨足が強くなり始めて、わたしは折りたたみ傘を広げた。
「あれーっ? マジか、もうみんな帰ったのかよ」
バタバタと後ろから足音が聞こえてきて、振り返ると飴沢くんがいた。すでに校門近くまで行ってしまった部員たちの帰っていく後ろ姿に、愕然としている。わたしは慌てて前を向いた。
「……あ、綿瀬?」
折りたたみ傘で、わたしの顔は見えないと思ったのに、飴沢くんが声をかけてくれる。
「あれ? あれって、ヨシトとヨシミじゃん? なんで二人で帰ってんの?」
遠くの二人に気がついた飴沢くんに、わたしはマズイと心臓がバクバクと音を立て始めた。
飴沢くんは、もしかしたらよしみんのことが好きかもしれないのに。それなのに、あの二人が一緒に帰るところを目撃してしまったら、きっとショックに違いない。不安になって傘の陰から飴沢くんの表情をそっと覗いてみた。
「……綿瀬、大丈夫?」
「……え?」
わたしが心配するように、飴沢くんも心配そうに眉を下げてこちらを見ているから、驚いた。
「あいつ優しいからなぁ。綿瀬は傘持ってるし、よしみのこと送ってくって言ったんだろ?」
「……え、あ」
それは違うな。
「俺は走ってくから、綿瀬、風邪引くなよ」
「え! ちょっ……」
引き留める間もなく、飴沢くんは強く降り付けて来た雨の中、バシャバシャと水たまりを蹴って行ってしまった。
「風邪引くなよは、飴沢くんの方だよ」
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