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記憶の階段2
子供の話が出たところで、私は、少しだけ押し黙る。
彼女に、この話をしても、良いだろうか、とふと迷った。
彼女は、チェルノブイリ原発が爆発したまさにその時、外で遊んでいて、放射能の多く含まれている雨を浴びていたのだと言う。
その、美しい青い瞳に宿る炎は、どうしたって私のと同じに見えた。
「妊娠がわかって、避難先の産婦人科へ行きました。…そこで、私は、出産は出来ないと言われました。…堕胎する為の病院への紹介状を渡されました」
声は震えてしまうし、喉が痛んで途絶え途絶えになる、こんな言葉たちを、翻訳者の方は黙って聞いて、それから彼女に向けて伝えてくれる。
私の話したありのままを、彼女が受け取った時、その瞳の炎は一層揺らいだ。
「私も、妊娠した時、登録してもらうために、地元のゴメリの病院に行きました。そうしたら、医師に、誰が許可したのだ?、と言われました」
彼女が語るそのシーンは、きっと私と同じであっても、重さが違っているのではないかとすら思えてしまう。
だって、この地に住まう人々は、チェルノブイリ原発の事故で被災して逃げて来た人たちは、何十年も、同じような言葉をかけられて来たのではないかと、そんな想像が出来てしまうからだ。
「私は医師に腹が立ち、あなたに聞くべきだったの?と言い返しました」
強い女性であると思う、このように発言出来たのだから。
だけど、目尻に浮かぶ涙が、その時の悔しさを今でも抱えているのだと、私に教えてくれていた。
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