44人が本棚に入れています
本棚に追加
記憶の階段6
あったかい。
沢山の連絡が、次々と私に届く。
あの日は、何にも気が付けなかった。
目を向けられなかった。
同じくらい、心配をしてくれた人たちがいたと言うのに。
「大丈夫です、そちらはどうですか?怖かったですよね、なのに、ありがとう、ありがとう、…ごめんなさい」
『なんで謝るんですか?』
「だって、どうして、私に?」
『気になったんです。どうしてだろう?すみません、声が、聴きたくて、夢中でした。お互い、家族から連絡があるかもしれないので、切りましょうね』
「そんな!私の方こそ、声が聴けて良かったです。無事で嬉しいです。ありがとうございました」
プツリと通話が切れて、交換していた連絡先でのやりとりが、ずいぶんと前で途切れてしまっていたことに申し訳なさを感じた。
そして、ふと思った。
宮城に行こう、と。
彼女は、震災の際に家族を失ったと聞いていた。
どれほどまでにつらいだろうか。
それでも生きてきて、今日、私の心配をしてくれた。
以前、待ち合わせをしたのは仙台だ。
車ですぐなの、と言っていた。
「ねえ、土日に、空港へ行こうか。仙台空港、まだ行ったことないよね」
「飛行機見れる?」
「うん。飛行機、見に行こう」
会いたい人に、会おう。
また会いたいなと思った時には、二度と会えなくなってしまっている。
そんなことは、きっと良くあることなんだ。
毎日、奇跡を当たり前に貪って、私たちはそれでも足りないと言う生き物だから。
だけど、今だったら、キイロさんには会うことが出来る。
会って、顔を見て声を聴いて伝えたいことがある。
彼女も、飛行機が好きなのだ。
病弱な彼女は、旅行に行く許可を、主治医からなかなかもらえない。
だから、良く空港へ行くのだと言っていた。
私は、息子を連れて、次の週末に仙台空港へ遊びに行くことにしたと、キイロさんにラインで伝えた。
お会い出来たら嬉しいです、とは書かなかった。
急な話だし、予定があるかも、色々と忙しいかもしれないし、迷惑になってしまっては本末転倒だ。
もし、気が向いたら来てくれるかもしれない、そのくらいの気持ちでいた。
最初のコメントを投稿しよう!