記憶の階段6

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記憶の階段6

 あったかい。  沢山の連絡が、次々と私に届く。  あの日は、何にも気が付けなかった。  目を向けられなかった。  同じくらい、心配をしてくれた人たちがいたと言うのに。  「大丈夫です、そちらはどうですか?怖かったですよね、なのに、ありがとう、ありがとう、…ごめんなさい」  『なんで謝るんですか?』  「だって、どうして、私に?」  『気になったんです。どうしてだろう?すみません、声が、聴きたくて、夢中でした。お互い、家族から連絡があるかもしれないので、切りましょうね』  「そんな!私の方こそ、声が聴けて良かったです。無事で嬉しいです。ありがとうございました」  プツリと通話が切れて、交換していた連絡先でのやりとりが、ずいぶんと前で途切れてしまっていたことに申し訳なさを感じた。  そして、ふと思った。  宮城に行こう、と。  彼女は、震災の際に家族を失ったと聞いていた。  どれほどまでにつらいだろうか。  それでも生きてきて、今日、私の心配をしてくれた。  以前、待ち合わせをしたのは仙台だ。  車ですぐなの、と言っていた。  「ねえ、土日に、空港へ行こうか。仙台空港、まだ行ったことないよね」  「飛行機見れる?」  「うん。飛行機、見に行こう」  会いたい人に、会おう。  また会いたいなと思った時には、二度と会えなくなってしまっている。  そんなことは、きっと良くあることなんだ。  毎日、奇跡を当たり前に貪って、私たちはそれでも足りないと言う生き物だから。    だけど、今だったら、キイロさんには会うことが出来る。  会って、顔を見て声を聴いて伝えたいことがある。  彼女も、飛行機が好きなのだ。  病弱な彼女は、旅行に行く許可を、主治医からなかなかもらえない。  だから、良く空港へ行くのだと言っていた。  私は、息子を連れて、次の週末に仙台空港へ遊びに行くことにしたと、キイロさんにラインで伝えた。  お会い出来たら嬉しいです、とは書かなかった。  急な話だし、予定があるかも、色々と忙しいかもしれないし、迷惑になってしまっては本末転倒だ。  もし、気が向いたら来てくれるかもしれない、そのくらいの気持ちでいた。
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