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記憶の階段8
息子が昼食を終えたので、外へ出て飛行機を見ることにする。
はしゃぐ息子と一緒に、キイロさんは楽しそうに飛行機の写真をスマホで撮影していた。
しばらくして、私の隣にやって来て、視線は飛び立つ飛行機へと向けたまま、なんだか独り言のようにキイロさんは呟く。
「私たち、ちゃんと生きて来られましたね、今日、だから、お会い出来たんです。生きてしまったことが辛かった日もあったけど、お空のお迎えばかり望むのはやめないと。息子くんに、これ、...好きかな」
「あ、私も!キイロさんに、絵を。ねえ!お姉ちゃんからプレゼントがあるよ!お礼を言おうね」
彼女がバックから取り出したのは、手作りの多肉植物の指輪と、オブジェだった。
息子が多肉植物を大切に世話をしていることを、以前SNSで載せたような気がするから、それを覚えていてくれたのだろう。
「ありがとう!ございます!僕の友達が増えたね、お姉ちゃん、大事にするからね」
「はい、よろしくね。うた子さん、絵を、ありがとう」
「あの!上手く伝えられないんだけど、でも、私、キイロさんが生きていてくれて嬉しいです。出会えたことも、今日、こうして顔が見れたことも」
「...うん。会えて、良かったです」
貴女には、どんな日々が待っていたの?
どれだけ傷つき、苦しみましたか?
今、幸せですか?
たくさん、笑えるようになりましたか?
どうして、私には何もしてあげられないんだろう。
優しくて、儚くて、荒々しい命が、彼女を時に襲い来る中、せめて苦しい思い出よりも、輝く言葉を見つけられたら良いのに。
押し黙る私に、ありきたりだけど、無力だから手を繋ぐんだよ、と彼女が言って、4人で手を繋いで、飛び立つ飛行機を見送った。
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