綺麗な月夜に三叉路の彼女と出会った

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 夏休み中、僕はお盆休み以外毎日塾で夏期講習を受けている。中学の受験シーズンに運悪く交通事故にあって入院。志望校だけでなく併願していた他の私立中学の受験もできなかったために、家から近い公立の中学校に進学した。せめて高校からでも行きたかった志望校に編入できるように、部活にも入らず勉強に明け暮れていた。そんな学生生活なので、そもそも友だちも少なく、クラスメートの顔すらしっかりと覚えていないのだから、昨日会った三池さんという女の子のことは知らないのは仕方がないかもしれない。  今日も朝早くから夜遅くの講義までずっと塾に缶詰だった。最後の講義が終わり、塾の階段を下りて外に出ると、昨日と同じように月が明るい。自転車に跨り、いつものように長い坂を下っていく。 「おーい」  坂道の下で、僕の方に大きく手を振りながら呼びかけている人影が見える。 「おーい、早瀬くーん」  あれは、えっと三池さん?  大きく両手を振って、その存在をアピールしている。  何か用事でもあって、僕に呼びかけているのかもしれないと思い、彼女の前に自転車をつけた。 「こんばんは、三池さん。何か僕に用事でもあるのかな?」 「用事? まあ用事といえば用事なのかな」  小首を傾げながら、僕に笑顔を向けてくる。 「早瀬くんと一言二言でも話をしたかったって用事。あれ、これは用事とは言わないか」  一人で話して一人で笑っている。昨日の印象とだいぶ違うけれど、昨日は初めて言葉を交わしたから緊張していただけで、これが本来の三池さんなんだろうと思った。
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