綺麗な月夜に三叉路の彼女と出会った

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 それからも塾の帰り道、坂の下の道路で三池さんと軽い会話をしてから帰宅する日々が続いた。何回かお母さんに買い物を頼まれて、帰りにコンビニに寄るためにあの坂道を通らない日もあったけれど、三池さんはそのことに対して特になにも言ってこなかった。ただ、見られているという嫌な感覚に包まれることは増えているような気がしていた。  中学校に入ってから、友だちを作らなかったこともあって、三池さんとの会話は勉強漬けの日々に一服の清涼剤となっていた。ある日は控えめな、ある日は明るく快活、ある日は大人っぽい、会うたびに違う雰囲気を醸し出す三池さんに、気がついたときには僕は惹かれ始めていた。  今日も最後の講義まで塾で過ごし、階段を下りて外に出てから、しまったと後悔した。出掛けにお母さんが、今夜は雨が降るかもしれないって言っていたから車で送って行こうか、と言ってくれたのに大丈夫だよといつも通り自転車で塾に向かったのだ。そして今、お母さんの言うように外は雨。土砂降りとまではいかないけれど、なかなかの降り具合だ。三池さんと会って話したい、そんな思いで無理して自転車できたことが悔やまれる。  雨で自転車のライトも役に立たない中、いつものように坂道を下っていくと傘をさした三池さんの姿があった。 「早瀬くん、傘、ないの?」 「残念ながら。あったとしても自転車だからさせないよ」 「あっ、そうだね。それより、ビショビショだよ。今、ママがパパを駅まで迎えに行っていないから、家の中で身体拭きなよ。雨弱くなってきたし、少し待てばやみそうだよ」
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