綺麗な月夜に三叉路の彼女と出会った

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 酸欠の金魚のように口がパクパクするだけで、言葉がうまく出てこない。そして、やっと発せられた言葉は、うん、というあまりにも味気ない一言だった。  それでも三池さんは表情を綻ばせて、嬉しいと言ってくれていた。  勉強しかしてこなかった僕に彼女ができた。友だちすらいなかった僕に彼女ができた。けれど、このあとどうしたらいいんだろう? じゃあ、これからよろしくと言って握手? 再び頭の中を検索するが最適解は見当たらなかった。それは三池さんも同じなのか、二人の間に微妙な空気が流れる。そんな空気の中、思わず二人の視線がぶつかり、二人して照れ笑いを浮かべた。  ゾワッ  一瞬、窓の外から得体の知れない不気味な気配を感じた。いつもの見られているあの感覚。全身に鳥肌が立ち、急激に体温が奪われていくような。 「早瀬くん」  そんな僕を心配してか、三池さんが僕の顔を不安そうに覗き込む。 「なんか、窓の外から嫌な感じがしてきて」  ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ  実際に音がしているわけではない、と思う。僕の感覚として、ゾゾゾっと何かが近づいてくることを感じるのだ。表情を見る限り、三池さんは感じていないようだ。  三池さんが立ち上がり、窓の方に歩いていく。 「あ、あ、あぶな」  口がうまく回らず、三池さんを止めることができない。そして、ザーッという音ともに部屋のカーテンが開けられた。 「うわぁ」  窓の外には、無数の顔で作られた人のようなものがへばりついていた。そのどの顔も、どことなく三池さんに似ている気がする。
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