1. 山道

5/5
44人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
   運転手が、ときどき後ろをちらっと振り返るのも気になる。後部座席には誰も乗っていないのに。  それとも、追われているのか? しかし、深夜の県道、後続車はない。  このまま自分のマンションに車を乗りつけて、大丈夫だろうか? 手前にあるコンビニで降りようかと迷っているうちに、タクシーはとうとう自宅前に続く道に入ってしまった。 「あ……」  しゃべろうとしたが、まるで金縛りにあったように体が動かない。  そうこうしている間に、とうとうタクシーはマンションの前に停まってしまった。 「お……降りる。世話になった」  男はそう言うと、財布から一万円を出してアームレストのトレーに置くと、「釣りはいらない」と言い捨て、慌てて助手席のドアを開け飛び出した。  男が降りたあと、運転手は後ろを振り向き、後部座席の自動ドアを開けたのだが、一目散にマンションに飛び込んだ男は気づかなかった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!