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男は後部座席の前でドアが開くのを待つが、乗車拒否なのか自動ドアを開ける気がないらしい。仕方なく、運転席側に回る。
運転手はドアウィンドウを下ろし、暗い表情で男を見上げた。
「乗せてくれないか」
男が頼む。
「申し訳ありませんが、今日の営業は終了です」
運転手は冷たく答える。
「そんなこと言わずに頼む。この山を歩きで降りていたら朝になっちまう」
運転手は、疲れ切った男の様子を上から下まで見る。
「行きはどうしたんですか?」
「車で来たが、車……。そ、そうだ、ガス欠してしまった」
「タクシーを呼んだらいかがですか」
「こんな山の中までタクシーが来るものか」
男はむっとする。
「現に私はここにいますがね」
運転手はふてぶてしく答える。
「だから乗せてくれって頼んでるんだ。どうせ、下まで降りるんだ。空いたままより、客を乗せれば駄賃になるだろ。それとも乗車拒否って宣伝してもらいたいのか」
実は男は携帯を家に置いてきてしまっていた。なんとしてでも乗りたかった。
「だから……」と運転手はちらっと後ろを振り向いたが、ため息をつき、「わかりました。仕方ない」と了承する。
男はほっとして車を回って後部座席のドアの前に立ち、ドアが開くのを待った。
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