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運転手が、ときどき後ろをちらっと振り返るのも気になる。後部座席には誰も乗っていないのに。
それとも、追われているのか? しかし、深夜の県道、後続車はない。
このまま自分のマンションに車を乗りつけて、大丈夫だろうか? 手前にあるコンビニで降りようかと迷っているうちに、タクシーはとうとう自宅前に続く道に入ってしまった。
「あ……」
しゃべろうとしたが、まるで金縛りにあったように体が動かない。
そうこうしている間に、とうとうタクシーはマンションの前に停まってしまった。
「お……降りる。世話になった」
男はそう言うと、財布から一万円を出してアームレストのトレーに置くと、「釣りはいらない」と言い捨て、慌てて助手席のドアを開け飛び出した。
男が降りたあと、運転手は後ろを振り向き、後部座席の自動ドアを開けたのだが、一目散にマンションに飛び込んだ男は気づかなかった。
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