死ぬまで消えない

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「こんばんは」 1階分駆けあがった階段を抜けて扉を開けば、思い描いた通りの人物が屋上の縁に立っていて、振り返って言う。そうやって死ぬほど無邪気に笑うから、心底憎いと、息を整えながら思った。 ここは、社会に擦り潰されている俺のような者が気を許して暮らせるマンションだ。だから屋上の壊れた鍵など放置されているし、縁にフェンスを作って安全対策されたりなんてしていない。 社会人になったばかりの頃、アパートでは張りが出ないとぎりぎりの見栄で借りた、最上階5階の部屋の、真上で。 冗談みたいに丸くてでかい月が見ているなか、数年ぶりで最悪の再会を俺たちは果たした。
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