死ぬまで消えない

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「さよならを言いに来た」 「さよならなんて随分前にもう済ましただろうが。こんなことしなくたって、ここから叫べば、俺のベランダまで聞こえただろ」 写真の共有が届くかどうかなんて、分かってやっていたくせに。晴れた花金の夜には、俺がこの真下のベランダで酒を飲んでいることだって、知っていたくせに。 こんな場所まで、こんな最低なシーンにまで、まんまと誘い出されたことに心底苛立つ。 「あのベランダは君の城だから。悪い思い出を遺したくなかったの」 「気遣いどうも。もう十分最低の思い出になった」 「たしかに。ほんとごめん」 こいつはいつだって、馬鹿みたいに素直で無鉄砲なやつだった。5年前に閉じたきりもう開くまいと思った心の扉が、わずかに軋む。
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