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「さよならだけじゃなくて、もうひとつ置いていきたいものがあって」
「いらねぇよ」
「これは私にとって必要な儀式みたいなものだから、今日だけゆるして。君は明日から、すっかり私のことなんて考えなくていいから」
「だれがお前のことなんて考えてやるか」
「はは、君のそういうところ、ずっといいなと思ってた」
儀式だなんて気味の悪いことを言ってから、青く照らされていた横顔をこちらへまっすぐ向けた。煌々とする満月を背にして、もういま彼女の表情はほとんどわからない。
腹の底が冷たかった。なんてことない風を装ってズボンのポケットに差し込んだ左手の指が震えている。
大嫌いだ。いつもいつもいつも、飄々と俺を振り回すお前のことが。
「ーーこれから君に、呪いをかける」
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