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黒髪に光るのはデルニスから贈られた花の髪飾り。
銀の《魔力環》が浮かぶ新緑の色。
小刻みに身体を震わせ、怯えたような顔でこちらを見ている彼女の名前はパトリシア。
辺境の小さな村を治めるスターチス男爵の娘であり、デルニスの恋人だ。
デルニスの婚約者はルーシェだが、パトリシアとデルニスが思い合っているのは周知の事実だった。
「聞きまして?」
「パトリシアを階段から突き落としたのですって、なんて酷い……あんな人が《国守りの魔女》だなんて間違ってるわ。国を守るどころか、国に混乱をもたらす悪魔よ」
「常々気持ち悪いと思っていたのよ、仮面のような笑顔を浮かべるばかりで何を考えているのかちっともわからない――」
遠巻きにこちらを見ている女生徒たちの囁き声が聞こえる。
男性の魔女は非常に珍しいため、この学校に通う生徒の九割は女性だ。
《国守りの魔女》――それは国一番の魔力を持つ魔女に課せられる義務。
《国守りの魔女》はエルダーク全土を覆う守護結界を張り、恐ろしい魔獣から日夜国を守らなければならない。
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