876人が本棚に入れています
本棚に追加
/232ページ
01:全ては婚約破棄から始まった
――バチン!
鞭でも振るったような音が耳の横で弾けて、視界が強制的に右横を向いた。
左頬に走る熱さと痛み。
そこでようやく、公爵令嬢ルーシェ・クラインは婚約者であるデルニス・ヘデラ・エルダークに打たれたのだと知った。
「…………」
左頬を押さえ、呆然とデルニスを見る。
苛烈な眼差しでこちらを見返す彼の青い瞳には金色の《魔力環》が浮かんでいる。
彼だけではない、この魔法学校にいる者は全員が魔女の証――金あるいは銀に輝く《魔力環》をその瞳の中に持っていた。
「貴様は悪魔だ! 嫉妬に駆られてパトリシアを階段から突き落とすなど信じられない!」
金髪碧眼の第二王子は美しい顔を歪めて怒鳴った。
侮蔑、無視、失笑。これまで彼は色んな負の感情をルーシェにぶつけてきたが、直接的な暴力を振るわれたのはさすがに初めてだった。
賑やかな昼休憩中に起きた事件の現場はエルダーク王立魔法学校の校舎、二階と三階の間の踊り場。
踊り場の窓からは陽光が降り注ぎ、ルーシェたちを照らしていた。
「デルニス様……」
デルニスの腕の中では可憐な少女が震えている。
最初のコメントを投稿しよう!